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慶應大学、山田悟先生ご寄稿の記事です。
高齢者の蛋白質摂取について、日本のメディカルトリビューン誌より引用
高齢者の蛋白質摂取、目指せ!1日1.6g/kg
2021年05月14日 05:00
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研究の背景:意見が分かれる蛋白質制限の是非
アンチエイジング(抗加齢)は古からの人類の課題である。食事はアンチエイジングのための介入項目として重要視され、具体的な食事法として、エネルギー制限食、間欠的飢餓食、蛋白質制限食、糖質制限食などが提唱されている(Aging Cell 2015; 14: 497-510、Science 2013; 339: 148-150)。
この中で蛋白質制限食については、基礎医学的にmTORシグナルを抑制することでアンチエイジング効果が期待される一方で(Curr Opin Clin Nutr Metab Care2016; 19: 74-79)、実臨床においては高齢者のサルコペニアの予防には若年者以上にしっかり蛋白質を摂取すべきとの勧告も存在し(J Am Med Dir Assoc 2013; 14: 542-559)、意見が分かれている。
単なる寿命の延長ではなく、健康寿命の延伸を考えるとき、高齢者の蛋白質摂取をどう考えるべきなのか、お悩みの先生もいらっしゃると思う。
このたび、欧米の複数の高齢者コホートを統合した共同研究により、蛋白質摂取量が多い群において歩行速度の低下が緩徐であるとの報告がなされた(Am J Clin Nutr2021年4月7日オンライン版)。観察研究なので因果関係を示せているわけではないが、肉(蛋白質)を食べる高齢者が元気(歩行速度が速い)でいられるという解釈が成立するデータである。
高齢者の健康寿命延伸のための食事介入を考える上で貴重なデータと考え、数年前に報告されたランダム化比較試験の結果(Am J Clin Nutr 2017; 106: 1375-1383)と併せ、ご紹介したい。
研究のポイント1:4つのコホート研究グループの共同体からの報告
本研究は、欧米の4つのコホート研究(表1)の共同体PROMISS(PRevention Of Malnutrition In Senior Subjects in the European Union)からの報告である。
表1. 本研究に参画した4つのコホートとフォローアップ時期

①Health ABC(Am J Clin Nutr 2018; 107: 155-164):米国の4州において1997年~98年に70~79歳の黒人と白人3,075人の自立生活者を登録したコホート。本研究では1998/1999年(ベースライン)~2006/2007年のフォローアップデータを使用した
②NuAge(Rejuvenation Res 2007; 10: 377-386):カナダのケベック州において2003年~2005年に67~84歳の1,793人の自立生活者を登録したコホート。本研究では2003-2005年(ベースライン)~2006-2008年のフォローアップデータを使用した
③LASA(Eur J Epidemiol 2016; 31: 927-945):オランダにおいて1992年~93年に55歳以上の3,107人を登録して開始されたコホート。2002年~03年に1,002人、2012年~13年に1,023人が追加登録されている。本研究では2012/2013年と2015/2016年のデータを使用した
④Newcastl e85+(BMJ 2009; 339: b4904):英国において2006年~07年に85歳の845人を登録したコホート。本研究では2006/2007年(ベースライン)~2011/2012年のフォローアップデータを使用した
高齢者施設入所者、Mini-Mental State Examination(MMSE)18未満の認知機能低下者、食事記録が利用できない者、極端に過剰なエネルギー摂取の記録(男性4,000kcal/日超、女性3,500kcal/日超)がある者、BMIのデータがない者などを除外して、計5,725人を解析の対象とした。
食事内容については、いずれのコホートにおいても食物摂取頻度調査法で評価され、体重1kg当たりの1日の蛋白質摂取量に応じて、①0.8g/kg未満②0.8~0.99g/kg③1.0~1.19g/kg④1.2g/kg以上―の4群に分類された。この蛋白質摂取量の設定は、複数の組織において推奨量(集団の97.5%が必要量を満たす、集団としての安全下限摂取量)として提示されている数値に従ったものである(表2)。
表2. さまざまな組織における蛋白質推奨量と上限量(g/kg/日)

身体活動については、Health ABC、NuAge、Newcastle 85+では自記式アンケートで、LASAでは研究者の面談による聴取で調査がなされた。
歩行速度については、Health ABCでは20m、NuAgeでは4m、LASAでは3mの歩行時間が測定され、Newcastle 85+ではTimed-Up-and-Goテスト(TUG、参考:日本運動器科学会公式サイト)が実施されていたため、歩行速度は〔6/TUG時間(秒)〕×1.62の式を用いて歩行速度に換算された。
身体機能として、自己申告での200m超の距離の歩行の困難さ(困難さの有無)と階段10段昇段の困難さ(困難さの有無)が評価された。
研究のポイント2:蛋白質摂取量が多い群ほど歩行速度の低下が緩徐
計5,725人〔中央値75.0歳、女性3,035人(53.0%):Health ABC 2,660人(46.5%)、NuAge 1,726人(30.1%)、Newcastle85+ 719人(12.6%)、LASA 620人(10.8%)〕が解析の対象とされた。
体重1kg当たりの1日の蛋白質摂取量で設けられた4群の人数は、それぞれ0.8g/kg未満:1,579人、0.8~0.99g/kg:1,335人、1.0~1.19g/kg:1,218人、1.2g/kg以上:1,593人であった。各群の特性は年齢、性、教育レベル、合併症、認知機能、喫煙状況において同等であった(年齢は統計学的には有意差があったが、研究者らは意味がないとしている:中央値は順に75.0歳、75.0歳、75.0歳、74.0歳)。
平均2.5±2.4年のフォローアップ期間において、全体の身体機能は次にように変化した(ベースライン→4回目フォローアップ→5回目フォローアップ)。
・歩行速度:1.06±0.28m/秒→1.01±0.25m/秒→1.03±0.23m/秒
・200m超の歩行に困難のある人の割合:18.0%→30.2%→35.4%
・階段10段昇段に困難のある人の割合:21.3%→31.5%→25.5%
ここで、著者らは蛋白質摂取量で4群に分けて歩行速度、200m超の歩行困難、階段10段の昇段困難の変化を検討している。
まず、歩行速度の低下は蛋白質摂取量によって用量依存性に緩徐になっていた(図1)。
図1.蛋白質摂取量による4群における歩行速度の変化(Zスコア※)

200m超の歩行困難や階段10段昇段困難については、蛋白質摂取量と負の関連があったが、200m超の歩行困難については用量依存性が認められたものの、階段10段昇段困難については、用量依存性はなく、0.8g/kg以上の3群の中では統計学的な差異は認められなかった。また、歩行困難からの回復や、10段昇段困難からの回復については統計学的な差異は認められなかった(表3)。
表3. 蛋白質摂取量による4群における歩行困難や階段昇段困難の発生などのハザード比(95%CI)

ただし、身体活動量で層別解析を行うと、身体活動量の多い群においては、歩行困難のみならず、階段昇段困難の発生についても蛋白質摂取量との用量依存的な負の関係性が認められた(図2)。
図2. 身体活動量の多い群における蛋白質摂取量による4群別に見た歩行困難(左)と階段昇段困難(右)の発生のハザード比

(表1~3、図1~2ともAm J Clin Nutr2021年4月7日オンライン版)
また、フォローアップ期間中の全死亡に対しては、蛋白質摂取量の4群で差異は認められなかった。
私の考察:蛋白質摂取を促すことで健康寿命の延伸を!
本研究は蛋白質摂取量が身体機能(歩行速度や歩行困難・階段昇段困難)に対して、(少なくとも部分的には)用量依存的に関与することを示した。その関与は用量依存的であるため、論文の著者らも指摘しているが、EFSAやIoMの0.8あるいは0.83g/kgという推奨量(繰り返しであるが、集団の97.5%が必要を満たす集団としての最低限度の量である。推奨量を最善の摂取量だと勘違いしている医療従事者が甚だしく多い)は、高齢者においてはもっと高くすべきかどうかの議論が必要である。
本研究は観察研究であり、因果関係に踏み込むことは難しいが、実は高齢者を対象に、1日の蛋白質摂取量を0.8g/kgと1.6g/kgの2群にランダムに割り付け10週間フォローアップするという比較試験が2017年に報告されている(Am J Clin Nutr 2017; 106: 1375-1383)。その結果、筋肉量(laen body mass)や脚筋力に対して1.6g/kgの方が優越した効果を示し、有害作用はなかったとのことである。
この意味でも、高齢者の推奨量の設定はわが国においても議論されるべきであろう。
私が主導した、緩やかな糖質制限食(エネルギー無制限、脂質無制限、蛋白質無制限)の試験での蛋白質摂取量は約1.6g/kgであった(Intern Med 2014; 53: 13-19)。この試験でも有害作用はなかった。
そのように考えると、高齢者の推奨量(最低限の必要量)として1.0~1.2g/kgを提示したPROT-AGEグループの勧告(J Am Med Dir Assoc 2013; 14:542-559)は妥当な気がするし、少なくとも1.6g/kg程度までは確実に(腎機能などに対して)安全な摂取量であるといえよう。高齢者に限定した話ではないが、1.66g/kgまでは確信をもって安全な蛋白質量としたWHO Technical Reportも妥当であると感じられる。
また、本研究では、蛋白質摂取量と死亡率には関連性がなかった。基礎医学的な蛋白質摂取によるmTORシグナル刺激がうんぬんということは、実臨床の現場では考えなくてよいのではなかろうか。そして、身体機能が高いまま同じ時期に死亡するとなれば、まさに健康寿命(のみ)の延伸ということになる。高齢者には健康寿命の延伸のために、寝たきり期間を短くするために、蛋白質摂取を促したいところである。
表4に2019年度の国民健康栄養調査における各世代の栄養摂取状況を示す。
表4.2019年度国民健康栄養調査※に見る年齢別栄養素などの摂取量

(2019年度国民栄養調査)
ここで、同じく2019年度の国民健康栄養調査に示されている身長・体重の状況を用いて、強引に体重1kg当たりで表4の蛋白質摂取量を除した数値を求めてみると、表5のようになる。
表5.2019年度国民健康栄養調査に見る身長・体重と強引に求めた体重1kg当たりの蛋白質摂取量

(2019年度国民栄養調査を基に山田悟氏作成)
こうして見てみると、わが国では60歳以上では、(もちろんこうした調査にきちんと回答できる、ある意味選ばれし高齢者のデータではあるが)ほぼ1.2g/kgという蛋白質摂取を達成していることになる。世界的に見れば素晴らしい摂取量なのかもしれない。しかし、さらなる寝たきり予防には、「目指せ!1.6g/kg」ということになろう。
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山田 悟(やまだ さとる)先生
1994年、慶應義塾大学医学部を卒業し、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。 現在、同院糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究や1型糖尿病の動物実験を進める。日本糖尿病学会の糖尿病専門医および指導医