メディカルトリビューン
4/11 配信より引用

慢性疼痛の新ガイドラインで「有用」とされた鍼灸治療
難治性の線維筋痛症に鍼灸治療が有効
2022年04月11日 16:35
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生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の低下を引き起こし、痛みが長期化して日常生活に支障を来すことがある慢性疼痛。原因は多岐にわたり複雑なため、確立された治療法はない。鍼灸治療も有用と考えられているが、どのような効果があるのか現時点では不明な点も多い。帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科の皆川陽一氏は、第51回日本慢性疼痛学会(2月25~26日)で、慢性疼痛患者に対する鍼灸治療の有効性を検討した結果を報告。急性痛が遷延化した慢性疼痛に加え、薬物治療が効果を示さない難治性の線維筋痛症の痛みやQOLの改善に効果が得られたと発表した。
慢性疼痛の新ガイドラインで「有用」とされた鍼灸治療
2021年度に発刊された『慢性疼痛診療ガイドライン』では、鍼灸治療について記載が加えられ、「慢性疼痛に対して鍼灸治療は有用であると考えるが、治療法を選択する際は、効果・コストを踏まえた上で患者の価値観を優先することが望まれる」として、推奨度は2(弱く推奨)、エビデンス総体の総括はC(低い)と記載された。
この点について、皆川氏は「2018年に発刊された慢性疼痛治療ガイドラインでは、鍼灸治療の項目がなかったことを踏まえると、エビデンスレベルは低いものの2021年の改訂版に掲載されたことは非常に大きな進歩」と指摘。一方で、「医療施設で鍼灸治療が盛んに行われているとは言い難く、医療者に鍼灸治療の内容や効果は十分に理解されていない」とした。そこで、慢性疼痛に対する鍼灸治療の有効性、どのような患者に適した治療法かを探るべく、同氏らは症例研究を実施し、その結果を発表した。
慢性疼痛に鍼灸治療はプラセボ以上の有効性
慢性疼痛は、①急性痛を繰り返す慢性疼痛、急性痛が遷延化した慢性疼痛、②難治性慢性疼痛ーの2つに大別される。前者は、痛みの原因が侵害受容器の興奮と考えられており、痛みは局所に限定され、局所が治療の中心になることが多い。後者は、痛みの原因が中枢神経系の機能変化または心理社会的要因と考えられ、痛みがさまざまな部位に出現し、不眠や便通異常などの不定愁訴が現れるという。そのため、疼痛局所に鍼治療を行うより、痛みをコントロールするための全身的な治療が中心になるという。
鍼灸治療は、施術者が経穴(ツボ)として知られる体の特定の部位を刺激する治療法。皮膚に刺す鍼を使って行うことが最も多く(手技鍼)、刺入した鍼に低周波の電気を流して神経や筋肉を刺激する鍼通電などもある。
皆川氏は、明治国際医療大学鍼灸学部の伊藤和憲氏が行った、高齢慢性疼痛患者26例を対象に鍼治療と針の先端をカットし体内には鍼を刺入しない偽鍼治療(Sham)とで有効性を比較するランダム化比較試験の結果を紹介。対象を2群に分け、グループAは週1回、計3回の鍼治療を実施後、3週間の無治療期間を経て、Sham鍼治療を週1回、計3回行った。グループBは、週1回、計3回のSham鍼治療を行った後、3週間の無治療期間を経て、鍼治療を週1回、計3回行った。有効性の解析には、痛みの評価スケールの1つであるVAS(visual analogue scale)および腰痛によって日常生活が障害される程度を評価する尺度であるRDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire)を用いた。
解析の結果、痛みの原因局所に鍼治療を行った期間で、痛みおよびQOLの改善が認められた一方で、Sham鍼治療を行った期間では症状の改善が見られなかった。(Acupunct Med 2006 24: 5-12、図)。そのため「原因局所への鍼治療はプラセボ効果以上の効果が期待できる」と紹介した。
図. 痛みの原因局所への鍼治療による有効性の検証
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また、海外の研究グループが発表した非特異的筋骨格系疼痛、変形性関節症、頭痛、肩痛など約2万例の慢性痛を対象に鍼治療の有効性を検証したメタアナリシスの研究も紹介した。この報告では、鍼治療は適切なツボに刺激を行うことで、プラセボ効果のみでは説明できない長期的な効果があることが示唆され、この治療の多くが局所+遠隔のツボを組み合わせたアプローチを用いていた。
これら国内外の研究結果から、皆川氏は「急性痛を繰り返す、または急性痛が遷延化した慢性疼痛に対しては、原因局所への鍼治療が1つの治療手段になる可能性が考えられる」との見方を示した。
薬物治療が効かない難治性の線維筋痛症にも効果
鍼灸治療は難治性の慢性疼痛に対しても有用性が期待され、伊藤氏らが難治性慢性疼痛の代表格である線維筋痛症患者に実施した2件の鍼治療の研究結果を紹介した。
1つは、線維筋痛症患者16例(25~63歳)に対し、鍼治療が痛みやQOLに及ぼす影響を検証したランダム化比較試験。四肢に刺入した鍼に電流を流す鍼通電と痛みを訴える原因局所への鍼治療を組み合わせた治療を実施。VASおよび線維筋痛症の重症度評価尺度であるFIQ(The Fibromyalgia Impact Questionnair)により効果を調べた(Chin Med 2010 23; 5:11)。
対象を2群に分け、グループA(8例)は5週間の無治療期間を設けた後に週1回、計5回の鍼治療を実施、グループB(8例)は週1回、計10回の鍼治療を実施した。解析の結果、無治療期間では症状の軽減が認められず、鍼治療を行うことでVAS、FIQとも改善が認められていることから、「線維筋痛症の痛みとQOLに対し鍼治療が効果を示し、全身的な痛みをコントロールできる可能性が示された」と述べた。
表. 下行性疼痛抑制系賦活を目的とした鍼通電刺激の有効性
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(図、表とも皆川陽一氏提供)
しかし、臨床においては、これらの治療を行っても効果が認められない難治症例も多い。原因にはさまざまな可能性があるが、慢性疼痛になると痛み関連の情報ネットワークが破綻し、下行性疼痛抑制系が減弱するとの報告がある。そこで、伊藤氏らは前頭前野に注目し、頭皮への鍼通電が脳内ネットワークを整えるような刺激となるか探索的な研究を行っているとして、その一部を紹介した。
対象は、VASが50mm以上、FIQが50点以上で、プレガバリンを3カ月以上投与しても痛みの改善を示さなかった難治性線維筋痛症患者7例。治療は、四肢に刺入した鍼への通電刺激に加え、頭部の頭維というツボに鍼を刺入し、電気を流す頭皮通電を週1回(計5回)行った。介入前後で効果を見ると、痛み(VAS)とQOL(FIQ)に有意な改善が認められた。また、有意差はないものの、7人中3人(約4割)で服薬量を減薬することができた。
今回の結果を踏まえ、皆川氏は「四肢への鍼通電と頭皮通電を組み合わせることが、難治性慢性疼痛の治療手段の1つになる可能性がある」と指摘。さらに、慢性疼痛患者はうつや不眠、恐怖、破局的思考などの随伴症状を伴ことが多いことから、「症状に合わせた鍼治療のアプローチ、また鍼灸の治療時間を考慮すると痛みの理解などについての患者教育を取り入れた鍼治療を行うことで、慢性疼痛治療の目的と最終目標である痛みの管理を行いつつ、QOLやADLの向上を目指す1つの治療手段になるのではないか」との考えを示した。
(小沼紀子)