
CGM、FGMの特性を生かした自己血糖管理を
適する患者像、今後の課題を探る
2021年11月01日 05:05
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適切な糖尿病治療を継続するには、患者自身が血糖変動を的確に把握する自己血糖管理が不可欠である。日本では現在、持続グルコースモニター(CGM)や間歇スキャン式持続グルコースモニター(iCGM、いわゆるFlash Glucose Monitoring:FGM)※などの機器が自己血糖管理に活用されている。東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科教授の西村理明氏に、自己血糖管理法の進歩の過程を振り返ってもらうとともに、各機器を用いた管理法における特徴とそれぞれに適する患者像、今後求められる改善点などを聞いた(関連記事「リアルタイムデータを生かす血糖管理のコツ」、「Flash Glucose Monitoringで血糖が安定改善」)
“厳格血糖管理至上主義”が改まり、新たに生まれたCGM、FGM
糖尿病患者の血糖管理については、1990年代に始まった大規模研究、DCCTとUKPDSが大きな影響を及ぼした。
両試験の一連の結果から、厳格な血糖管理が1型糖尿病患者および2糖尿病患者における細小血管障害の予防に有効であること(N Engl J Med 1993; 329: 977-986、Lancet 1998; 352: 837-853など)が示された当時、「糖尿病診療医の間では、”糖尿病患者は血糖値すなわちHbA1cを下げるべし”との方針が金科玉条のように広まっていた」と西村氏は振り返る。
しかし2008年、高リスクの2型糖尿病患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)ACCORDでは、目標HbA1c値を7.0~7.9%とした標準療法群に比べ、6.0%未満に定めた強化療法群で死亡率が有意に上昇。心血管イベントの抑制効果は示されなかった(N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559)。この発表は当時多くの糖尿病診療医に衝撃を与え、糖尿病治療においては低血糖リスクも勘案すべきであるという考えが浸透していった。
このような状況下、「ACCORDの発表後、患者自身が血糖管理を適切に行う手法として普及してきたのが、CGMやFGMである」と同氏は紹介した。
血糖管理の手法としては、CGMやFGMに四半世紀ほど先駆けて1986年、血糖自己測定(SMBG)が日本で最初に保険適用された。SMBGは患者自身で測定時の血糖値を把握できる手法だが、測定時以外の血糖値や血糖値の変動傾向は把握できないため、高血糖や低血糖の存在を十分に把握できない点や、測定のたびに指先への穿刺による疼痛などが問題とされてきた。
予測アラート機能備えるCGM、簡便さやコスト面で優れるFGM
一方、CGMやFGMは間質液中のグルコース濃度を測定して血糖値を推測するシステムで、血糖変動を把握できる。
CGMのうち、リアルタイムCGM(rtCGM)は、常に血糖変動が閲覧可能な点や、低グルコース濃度または高グルコース濃度に至ることを予測し、アラートを発する機能を備えている点などがメリットといえる。西村氏は特にこのアラート機能を重要視しており、「無自覚で低血糖状態に至ってしまう事態を避けられるため、そうしたリスクがあるドライバーの事故防止などに極めて有用である。また、家族など複数の人にアラートを通知できる機能を有した機器を利用すれば、重大な高血糖、低血糖リスクが生じた際に周囲の人からサポートを得られやすい」と強調した。
過去の報告でも、低血糖を自覚しづらい1型糖尿病患者を対象に、rtCGMとFGMの有効性を比較検討したRCTでは、FGM施行群に比べrtCGM施行群で有意に低血糖時間が短かった(Diabet Med 2018; 35: 483-490)。さらに今年(2021年)、同じく1型糖尿病患者を対象としたRCTでも、FGM施行群と比べrtCGM施行群では低血糖領域および高血糖領域にある時間帯の割合が有意に少なかったことが示されている(図)。
図. rtCGM施行群およびFGM施行群における血糖コントロールの比較

ただし、rtCGMでは機器で測定したグルコース濃度と、SMBGで測定した血糖値を比較して数値を補正(較正)する必要があり、装着や操作もFGMと比べ煩雑である。加えて、保険適用となる条件が厳しく機器も高価なため、FGMよりも患者の経済的負担が重くなる傾向にあることなどはデメリットである。測定に用いるセンサーの交換頻度も6~10日間に1回と、FGM(2週間に1回)より高い。
FGMでは、較正の必要がなく装着や操作もrtCGMより簡便で、経済的負担も低い傾向にある。その反面、アラート機能は備えておらず、グルコース濃度を8時間ごとにスキャンしなければならないといった制約がある。「スキャンを求められる周期がもう少し長くなれば、FGMは今以上に使い勝手がよくなるだろう」と同氏は指摘した上で、「現状、利便性やコスト面からFGMを利用している患者の方がrtCGMより多いと思われる」と説明した。
インスリン発見100年を機に利用患者への補助、保険適用拡充を
FGMと比べ、rtCGMを使用するためのハードルは高い。
日本糖尿病学会の「リアルタイムCGM適正使用指針」によると、まず施設条件として①インスリンポンプ一体型rtCGM(SAP)療法と同様にインスリンポンプ治療を行っている②糖尿病治療経験5年以上の糖尿病専門医が1人以上勤務している-に加え、配置するコメディカルや講習の受講なども指定されている。
適応症例も限定的であり、低血糖対策と血糖コントロールの両立が強く求められるが、就労や生活環境上の理由でSAP療法を使用できない急性発症1型または劇症1型の糖尿病患者や、空腹時血清Cペプチドが0.5ng/mL未満で、インスリン治療を行っていても低血糖発作など重篤な有害事象が起きている2型糖尿病患者に限られている。
こうした点を踏まえ、西村氏は「公的支援が全くない20歳以上の1型糖尿病患者がrtCGMを使用する際には、せめてなんらかの補助が得られるよう取り計らうべきである」と主張。「FGMに対する保険適用範囲の拡大も含め、インスリン発見100年という節目に当たる今年は、こうした動きを進める好機なのではないか」と付言した。
血糖管理はまずワンポイントケアから
近年、rtCGM、FGMともに専用アプリケーションをダウンロードすれば、スマートフォンなどの端末でも血糖変動などに関わる各種データが確認できるようになった。
これらの技術革新に関し、西村氏は「血糖管理を要する糖尿病患者に好影響を及ぼしている。専用機器を用いる場合と比べ、移動時間や空き時間などを活用して、手軽かつ頻繁に自身の血糖変動などをチェックできるようになったため、血糖管理をこまめに気にかける患者が格段に増加したと感じている」と語る。その上で、「将来的には、家電製品のように屋内や車内などに据え置き、非接触式で手軽に血糖値を測定できるような小型の機器の登場にも期待したい」と付言した。
今後、rtCGMやFGMはプライマリケアの現場でもますます活用されていくとみられ、糖尿病診療を専門としない医師がこれらのデバイスを使用するケースも増えてくると考えられる。そうした医師に対し、同氏は「測定されるデータをいきなり全て把握しようとはせず、改善すべき点を絞り込んで患者指導に役立ててほしい」と呼びかける。「例えば、低血糖状態にある時間帯だけに着目して患者に食事や運動といった生活習慣の改善を促すなど、最初はピンポイントでアプローチしてはどうか」と提案。「1つ問題点が改善されると、他の問題点にも波及効果が生じ、さらなる血糖改善につながることもある」と述べた。
※日本糖尿病学会は2021年9月改訂の「リアルタイムCGM適正使用指針」において、FGMの名称を「間歇スキャン式持続グルコースモニター(intermittently scanned CGM;iCGM」に変更
(陶山慎晃)